1.Swimmy若手デザイナーが語る、新人の壁と乗り越え方
はじめに登壇したのは、デジタルに特化したクリエイティブエージェンシーswimmyのデザイナーを務める大槇美穂氏と渡邉麻冬氏。大槇氏は2019年4月から、渡辺氏は2018年8月から同社にジョイン。超若手デザイナーの両名は、それぞれ自己紹介とデザイナーを志した経緯からトークを始めた。
大槇:私はWebデザイン未経験から始め、現在デザイナー歴5ヶ月目です。岡山の大学のデザイン科を卒業したあとに上京し、今に至ります。現在は、コーポレートサイトのTOPページやLPなどを中心にアシスタントデザイナーをしています。
渡邉:私は武蔵野美術大学で、テキスタイルを専門に学んでいました。ものづくりが好きだったことと、社会人になったら仕事として新しいことを始めたいという思いからWebデザインの世界に飛び込みました。
Webの世界は未経験という2人。デザインの専門用語ひとつを理解するのにも時間がかかる中、経験の不足ゆえに起こるトラブルに何度もぶつかったという。
大槇:自分の認識と求められているデザインのズレに気づかず大きく修正が入ったり、無計画に作業をするせいで時間をかけすぎてしまう、ということが今でもあります。特に難しいのは、「何が分からないのか分からない」状態。誰にどう相談したら良いのかが分からず途方にくれることが何度もありました。
渡邉:私も大槇さんと同じく、半日かけて作ったものが即却下されたり、求められているものと作るべきものがどう違うのかを理解できなかったりということが頻繁にありました。「自由に作って」とディレクターから指示を受けても、その意味が分からない。「無理!」と何度も思いました(笑)。
世の中には若手デザイナー向けの手引きや勉強法は数多く存在する。二人は慣れないながらも壁を乗り越える中で、少しずつ解決策や改善方法を自分に合う形へとアレンジできるようになった。
大槇:このデザインは何のためにあるのか、言葉にする訓練をするようになりました。最初に他のメンバーとゴールを共有できるし、どこでつまずいているのかが分かりやすくなります。そして、時間をきっちり区切り、計画に沿うことを第一に進める。こうすることで、思いがけず時間を取りすぎる事態を防げるようになりました。
渡邉:時間の使い方については細かいスパンで時間を区切るようにしました。言語化についても、細かいところまで言葉で表現することで、自分のデザインに理由付けができるようになりましたね。論理的にデザインを考えられるようになっただけでなく、ディレクターがクライアントに説明しやすい言葉を選ぶなど、他のメンバーのことも考えて仕事が進められるようになったと感じます。
最後に二人は、より優れたデザイナーを目指すべく今後の抱負を述べた。
大槇:今後は、スタートからゴールまでを最初にイメージしてからデザインを始めるようと考えています。加えて、言語化の徹底ですね。制作はチームプレーです。コーダーやアートディレクターになるべく齟齬なく自分の考えを伝えられるよう、話すことと聞くことの両方を大切にしようと思います。
渡邉:『デザインを言葉にする』ことは、今後も必ず意識したいですね。チーム全体が共通の認識を持っていることは、制作の上でとても重要です。デザイナーは口下手が多いと言われていますが、たどたどしい言葉でも、『なぜ』を常に言葉にしていきたいです。それから、自分のデザインを人に見てもらうこと。主観だけに偏らず人から意見をもらうことで、より良いデザインを目指したいです。
2.非・美大生はいかに美大生と戦うのか?
続いて登壇したのは、現役大学生デザイナー田中悠一。工学部情報工学科プログラミングを専攻する傍ら、デザインを独学で学び、UI/UXデザインのプロフェッショナルを目指している。美大出身が多いデザイナーというフィールドにおいて、工学部生の田中はいかにして彼らと同じ土俵に立つことができたのか。その勉強法を紹介した。
田中:今はインターネットに欲しい情報がほとんど落ちている時代です。PinterestやInstagramなどを見て、『いいな』と感じるデザインを見つけたら、僕はとにかく英語で検索をするようにしました。そうすると、大抵の場合は作りたい表現のチュートリアルが見つかります。
特に海外のデザイナーが初学者向けに丁寧なチュートリアル動画をアップロードしているケースも多く、そこから多くの学びを得たという。
田中:スタンダードですが、オススメはYouTubeですね。動画がとにかく豊富なので、たとえば”after effect ui button”と検索するだけでも、こんなにたくさんの動画が出てきます。
他によく使ったのは、SkillshareとlearnUX。Skillshareは月額制で、全てのカリキュラムが受け放題。とにかくクラスの数が多く、学ぶ内容が小分けにされているので学びやすい。カッコいい作品の作り方や、クリエイティビティを学びたい人に向いています。learnUXは、数少ないインタラクションソフトのカリキュラムがあり、レアな内容が豊富に揃っています。
自分の作りたいものを模倣しながら作ると、各ツールの使い方や特性にも自然と詳しくなれる。外部サービスを使うことで、デザインだけでなくツール周りの知識も身につけられることが何よりのメリットだという。
トークの最後、田中は、未経験者が効率良く学びを進めていく上で大切な心構えについてこう語った。
田中:昨年、デザイナーのインターンをしていたときに社会人の先輩から言われた3つのことが、今でも僕の指針になっています。1つ目は、自分の力量以上のテイストに挑戦して時間を使いすぎないこと。『ここまでならやれる』という基準を持っておくことで、瞬時に適切な判断ができるようになりました。2つ目は、リソースを考えて戦略的に勉強と仕事を進めること。自分の立ち位置やスキルを意識した上で戦略を立てられれば、自分の力量以上の場で結果を出せる可能性が上がります。
最後に、5年後の未来をいつでも想定すること。ちょっと先の未来に向けて、今磨くべきスキルは何か。今後は何が魅力なのか。そのために最適な環境はどこなのかを選択することです。こうした心構えを忘れずに、これからもデザイナーとしての勉強を続けていきたいと思います。
3.企業価値を高めるブランドエクスペリエンスデザイナー
最後に登壇したのは、千葉工業大学デザイン科学科4年生に在籍する石井彩夏氏。ブランドエクスペリエンス(=BX)デザインをテーマに卒業研究をおこなう一環として、エストニア発のロボット技術教育を推進するRobotex Japanにてデザイナーとしてジョイン。その経験を活かし、自身で架空の企業”RIBOT”を作り、ブランド価値を高める手法に関する研究をおこなっている。
石井:私はBXを『企業価値を高める働き』と定義しています。企業がビジネスをするとき、そこには顧客と企業、企業と協力企業など、さまざまな関係が生まれます。BXデザイナーの役目は、それぞれのタッチポイントを考慮した上でビジネスの方向性を考え、企業のサービス体験とブランディングを両方設計することです。
卒業研究において石井氏が特に力を入れたのは、初期のリサーチから戦略。今回のLTでは、実際にBXをおこなう流れと、それぞれの過程で得た学びを共有した。
石井:まずは企業の提供するサービスの対象となるユーザーへのインタビューと市場調査から始め、行動分析、戦略立てへと進みます。その企業が今後いつ、どんな施策を打ち出すべきかという施策を打ち出した後、企業がどう動いていくべきかを検証するところまでがBXデザイナーの仕事です。
RIBOTは「人とロボットを結ぶ」をコンセプトにした架空の企業。石井氏は、同社のターゲットを対象に、幼児教育の現場に関するインタビュー調査を実施。その結果から浮かんだターゲット像を3パターンに分け、各々の深いインサイトとストーリーを探った。
石井:調査の中で私が最も重視したのは価値仮説です。価値仮説とは、ターゲット、ニーズ、機能アイデア、取り組む提供価値の4つをまとめ、企業の目的と方向性を示したもの。調査を通し、教育意識の高い親に対して、RIBOTは『未来を見据えた教育をおこなう』というコンセプトのもとサービスを設計するべきだ、ということが分かりました。
石井氏は、現在もこの卒業研究を継続中。今後はペルソナの言語化やサービスブループリントの設計に加え、RIBOTのワークショップやイベントの詳細な構想を立てて実際に実行し、その改善提案もおこなう予定だ。
4.駆け出しからプロになるために―第一線で活躍するデザイナーは、どのようにデザイナーになったのか
後半では、GIGアートディレクターの今西宗也氏、Futurizeの取締役でデザイナーの池田大季氏が登壇。モデレーターはchot Inc. CEOの小島芳樹が務め、会場の質問に答える形でディスカッションをおこなった。駆け出しデザイナーたちからは、未経験からプロになるまでの過程に関する質問が多く寄せられた。
小島:まずは、先輩のお二人の経歴から伺わせてください。
今西:僕はアートディレクターになる前、4年ほどデザイナーをしていました。デザイナーになる前まではデザインの仕事とはほぼ無縁の世界にいましたが、あるとき『デザイナーってカッコいい……』と思い立ち、その日のうちにデジタルハリウッド大学のパンフレットを取り寄せちゃったんです(笑)。会社を辞め、デジハリで本格的にデザインの勉強を始め、今に至ります。
池田:台湾留学をしていた学生時代、当時全然お金がなかったんです。すぐ稼げそうな仕事を探していたとき、デザインが目に止まりました。オンラインでも仕事ができるなら、留学しながらでも稼げるかもしれないと思って。現実はそんなに甘くなかったのですが、きっかけはそんなところでした。
小島:お二人とも、なかなかレアな体験からデザイナー人生が始まっていますね(笑)。デザイナーとして学ぶ中で、影響を受けた人や出来事などはありますか?
池田:『結果を出さないと明日死ぬ』という状況に追い込まれた経験でしょうか(笑)。実際、そういう切羽詰まった状況になると自ずとやれることが増えるので、若手を育てる時はとにかく現場に入れるようにしています。
小島:確かに、そこまでの状態だからこそ乗り越えられる壁というのはあるかもしれませんね。今西さんはいかがですか?
今西:アニメや漫画がとても好きだったので、そこから多くの影響を受けましたね。もともとはWebデザインではなくグラフィックの方に興味があったのですが、インタラクティブなコミュニケーションが可能なことや、スキルの将来性などを考え、Webデザイナーの道に進みました。
小島:なるほど。確かに、デザインそのものからよりも、それ以外のものから受ける影響もデザインのセンスに大きく関わってきますよね。さて、次の質問です。未経験からデザイナーになるにあたって意識したことや取り組んだことを教えてください。
今西:僕はとにかく投資を惜しみませんでした。デザイナーに憧れたその日にデジハリの資料を取り寄せたし、Macもすぐに買った。26歳で完全に未経験だったので、思い立ってからの行動をとにかく早く、お金は惜しまず、を常に意識していましたね。
池田:初めは台湾でデザインの職を探したのですが、その当時はデザインの仕事などまったくなく、トイレ掃除やティッシュ配りなど、関係のないことばかりやっていました(笑)。でも、雇ってくれていたデザイン会社の社長がたまにワードプレスの案件なんかを取ってきて、でもそれの納期が翌日だったりして、そんな状況の中、無理やり知識を詰め込んでやっていたら、いつの間にかスキルが身についていました。
小島:退路を断つというのは成長する上で重要な要素のひとつかもしれませんね。では、最後の質問です。デザイナーを志したとき、分野や方向性などをお二人はどうやって決められたのでしょうか?
今西:僕は、自分が得意なことや好きなことをなるべくしていたいと思っていました。緻密なデザインよりも、情緒的でグラフィカルなデザインのほうが好きで、そういう方面ばかりをやっていたら、自然とそういう仕事ばかりがくるようになりましたね。なので、特に決めたなどはなく、好きなことに忠実に仕事をして今がある、という感じです。
池田:デザイナーには、数字を動かすデザイナーと人の心を動かすデザイナーの2種類がいると考えていて、自分は前者のタイプになろうと思いました。美大卒ではないので、後者で戦っていくのは厳しいのかなと。数字タイプのデザイナーになると、自由な発想とは縁遠くなってしまいますが、ファクトとしての数字で利益に貢献できるのはとても嬉しいし、やりがいを感じます。そういう観点で自分の強みを決めても良いんじゃないかなと思います。土俵を変えたり、他の人がやっていないことをやるのは間違いなく価値につながりますね。
今西:それで言うと、少し前まではグラフィカルなデザインが得意なデザイナーが数多くいましたが、今はむしろ減ってきている。コモディティ化したものを皆がやらなくなった結果、それをコツコツとやってきた人間が残る、という現象が起こっているのかもしれません。
小島:興味深い分析ですね。自分の市場価値は、どのような業界、職種であっても意識しなければならないということですね。お二人とも、ありがとうございました。これからの世代を担う若手デザイナーの皆さんにとって、今日のお話が参考になれば嬉しい限りです。本日はありがとうございました。
[文]藤坂鹿
5.chot.designでは今後も駆け出しデザイナーのためのイベントを開催予定!
chot.designでは今後も様々なイベントを企画しています。ぜひ遊びにいらしてください!
9月25日(水)開催!
Design & Collaboration #1
「駆け出しデザイナーミートアップ」
https://chot-design.connpass.com/event/146335/