delyデザインチームマネージャー/PMが語る、習慣をハックする学習術

デザイナーの学びの鍵は、習慣をハックし発信し続けることにある ── dely 小林和央

公開日:2020/07/02最終更新日:2020/07/07

成長・変化のために、よい習慣を身につけたいと考える人は多いでしょう。一方で、実際に新しい習慣を身につけるのは簡単なことではありません。

今回お話を伺った小林和央さんは、そんな習慣化の技術を高めキャリアを積んできた方のひとり。小林さんは現在、料理レシピ動画サービス「クラシル」を運営するdely株式会社のUIデザイナー兼プロダクトマネージャーを務めています。

取材中、小林さんから何度も出てきたのは「習慣」や「継続」「経験を重ねる」といった言葉。いずれも、デザインのみならず何かを学び身につけるにあたって、重要なキーワードです。

今回はオンライン取材にて、小林さんがデザイナーを志したきっかけや、これまでのキャリア、デザインを学ぶ際のコツについて伺いました。

小林和央
2016年法政大学デザイン工学部卒業後 事業会社に新卒入社。 在学時は産学連携で救急医療分野の問題を解決するプロダクト/システムを開発。 入社後は アプリフルリニューアルのUIデザイン/開発を担当。 2017年1月よりdelyに夜間のみの業務委託でジョインし、2018年4月に入社、ブランド部の責任者に。現在は開発部に異動し、デザインチームマネージャー兼PMを務める。



1.デザインを夢で終わらせない

小林さんがデザイナーを志すきっかけは高校時代、身の回りにある製品のデザインに興味を持ったことでした。

小林「牛乳パックとか、身近な製品のデザインやパッケージに興味がありました。でも、当時はデザインを仕事にすることは考えていませんでした。というより、美術教育を受けてきたわけでもなかったので“難しいだろう”と何となく諦めていたんです」

デザインをやりたいという気持ちはあった一方、両親が公務員で堅実な家庭で育ったこともあり、デザインの道に進みたいとはなかなか言い出せなかった小林さん。高校3年間は地元にある大学の経済学部を目指し勉強をしていました。しかし浪人をすることになり、改めて進路に向き合った結果、理系からもデザインを学べる道があることを知ります。そこで理系に転向し、工業デザインの分野を目指すことに。踏み出すきっかけについてこう話しました。

小林「志望していた大学に落ちてしまってから、『本当にやりたいことと向き合いたい』と考え直したんです。当時、たまたま友人に紹介してもらった美容師さんがいて。その方は心からやりたいことを実現している人で、かっこいいなと思ったのもありました。美容師さんにデザインの道に進みたいと思っていることを相談すると『それは絶対やったほうがいいよ』と後押ししてもらい、デザインの道を目指そうと決めました」

その後小林さんはデザイン工学部に進学。在学中は、患者の医療情報を素早く医療者に伝える「緊急時既往情報伝達システム」の開発に力を入れます。そのきっかけは、救急医療現場の課題を目の当たりにした経験にありました。

小林「ある日研究室にいらっしゃった高齢の方が、その場で倒れてしまったんです。救急隊員を呼んだところ『(救急隊員は)規則上、倒れた方の鞄をあけて連絡することはできないため、代わりに家族の方に連絡してもらえませんか』と言われて。患者さんのプライバシーを侵害しないためとはいえ、すごく不都合を感じたんです」

家族や主治医からの連絡を待たずに、救急隊員が即座に既往情報を知ることができれば、より多くの命が助かるのではないか。そこで、患者さんの同意のもと医療情報が埋め込まれたICチップタグと、救急隊員向けの情報共有アプリケーションの仕組みを開発します。

同じ研究室でデザイン工学を学びアプリケーション開発を行なってきた先輩と起業し、ビジネスとしての展開も模索。しかしマネタイズなどさまざまな課題が生じ、2016年に事業を終了しました。この経験について小林さんはこう振り返ります。

小林「救急隊員の方にプロトタイプを触ってもらったり、提案したりなど、新しいものを一から作って、社会実装を試みるところまで経験しました。経験を積めたという意味では良かった面もたくさんありますが、デザイナー目線だけで『こういうものが理想だよね』と提案するだけでは、実現に及ばないことも同時に痛感しましたね。このときの経験は、delyでの仕事にも活きています」

2.自分なりの強みを見出していくには?

小林さんは学生時代、大学での活動や起業と並行し、複数のIT系ベンチャー企業でデザイナーインターンも経験します。そこでの経験から、より大きな組織かつプロフェッショナルがいる環境で働きたいと考え、新卒ではヤフー株式会社に入社。地図アプリのUI,UX改善業務に携わりました。

小林「経験豊富なデザイナーと働く中でスキルを学びとりたいと考えたため『配属はどこでもいいので、とにかく“強い人”と働かせてください!』と人事に希望を出したんです。その結果、40代のベテランデザイナーと働く機会を得ることができました」

小林さんが一緒に働いたベテランデザイナーは、ユーザーインタビューのプロフェッショナル。緻密な設計書やインタビュー後のレポートを見て「これはとても真似できない」と感じたといいます。

小林「デザインに限らずだとは思うのですが、ある程度知識をインプットをすれば一般的な手順とか、こういう風に作ればいいんだとか『基本』は分かってきます。しかし、自分なりの強みを見出していくためには、その仕事を継続的にブラッシュアップし、極めていく必要がある。その方と働く中で強く感じましたね」

一方で小林さんは当時スタートアップの環境にも興味を持ち、勉強会でdelyのデザイナーから話を聞いたことがきっかけで2017年1月に副業でdelyにジョイン。ヤフーで働く傍ら、delyのビジョン・ミッションの策定などコーポレートデザインを担当します。

小林「当時のdelyは組織の規模がどんどん大きくなる最中で、企業としてのアイデンティティを明確にしなければならないタイミングでした。CIデザインの経験はありませんでしたが、参考書や有識者の方の話を参考にしながら取り組んでいきました。

コーポレートデザインでは、その会社自体を『いかに自分ごととして考えられるか』が重要です。言われたものを単に形にするのではなく『こういう世界を目指したいなら、もっとこういうものを作るべきではないか』など、どんどん提案することを意識していました。

幸い、学生時代に起業の経験があり、その時にチームでものを作る難しさを実感していたので、CEOの堀江とも話が通じやすかったのではないかと思います」
 

3.デザインは手段。囚われすぎず、冷めた目を持つ

業務委託で関わる中で、メンバーの高い熱量やプロダクトへの想いの強さに共感した小林さんは、2018年4月に社員としてdelyに入社。入社後最初に担当したのはクラシルのブランドリニューアルでした。「1週間かけてデザインを作り込むより、ラフ案をすぐに出してより早くゴールに近づける」ことを意識したといいます。

小林「リニューアルをやろうとなった当時、堀江の考えをヒアリングしたのですが、最初は堀江の言っていることがよく理解できていませんでした。そこで、粗々でのアウトプットイメージの共有をスピーディーに行いながら、ブラッシュアップを重ねていったんです。最終的なアウトプットだけではなく、プロセスの価値を強く感じた瞬間でした」

現在は開発部でプロダクトマネージャーも兼務している小林さん。プロダクトマネジメントを行う上では、ビジネスやチーム作りの観点も必要です。プロダクトマネージャーの経験を積む中で、デザイン業務と自身の役割の距離感や、他職種とのコミュニケーションについても考える機会が増え、デザインに囚われすぎないことも意識するようになったといいます。

小林「もちろん突き詰めることも大切ですが、それと同時にのめり込み過ぎないように……という意識も必要です。企業活動におけるデザインとは、企業・サービスの価値を高める一つの手段にすぎません。徹底的にこだわる姿勢を持ちつつ、他方では、自分が作ったものに対して冷めた目を持ち、ビジネス的な合理性も忘れないよう意識していますね」

チームでサービスを作り上げていく上では、非デザイナーや経営層とのコミュニケーションが欠かせません。異なる専門性を持つ人とのコラボレーションは小林さんが大学生の頃から実践し課題も実感していた部分。現在はそれを上手く進める上で、ひとつの解を見いだしたと言います。

小林「特に他職種の人と話すときは『基本的に持っている前提条件が違う』という意識で、コミュニケーションをしています。デザイナーはプロダクト・サービス自体に対する熱量が高いですが、例えば営業は『いかにクライアントの課題を解決するか』を常に考えている。

デザイナーがこだわり抜いている部分も、別の担当者にはそこまで重要じゃないこともある。相手とは見ているポイントが異なると前提を持って接することが、よいコミュニケーションの鍵だと考えています」

小林さんは、デザインやサービス作りに対する自らの考え方を言語化して、発信することも意識的に行なっています。例えばSlackで社内のメンバーに発信したり、直接DMをしたり。そうすることで、意見の違うメンバーとも建設的に議論する土壌になるといいます。

小林「サービスづくりのあるあるだと思いますが、デザイナー部門とマーケティング部門が考え方の違いでバチバチしてしまうことがありますよね。『あいつらはわかってない』みたいな衝突って、お互いに対する理解や情報が足りていなことで起こると思うんです。

だから自分の考えていることを常に言語化して何度も発信したり、メッセージを送ったりすることで、“知らないからこそ、思い込んでしまう”ことを避けられればと意識しています。その過程で“あの人はこう考えているんだ”と自分が知れることもありますし、流通する情報量が増えてネガティブなことは何もないですから」
 

4.学びのコツは、自己コントロールによる習慣化

相手の立場を理解し、考えを汲み取ったり、自身の考えを適切に言語化するには、専門領域以外も含めた多様な知識のインプットが必要です。小林さんはプロダクト作りやUI,UXデザイン、CIデザインなどさまざまな領域でデザインを行なってきましたが、どのような形でインプットと実践をしてきたのでしょうか。

小林「必要に迫られたタイミングで、短期集中型で学ぶようにしてきましたね。3ヶ月〜半年程度、これだと決めたテーマを集中的に勉強します。例えばdelyのCIデザインを行なった時は、関連の本を10冊くらいまとめて購入して読みました。それからCIを得意としている人に会って話を聞いたり、意見をぶつけてみたりする。『CIについて考えることが楽しくてたまらない!』という状態に自分を持っていくんです」

効率的に知識やスキルを自分の中に落とし込むコツは「それを学んでいる(経験している)状態を楽しいと思えるところまで何度か試行錯誤し、習慣化をすること」だといいます。

小林「誰にとっても新しい分野を勉強するって難しいと思うんです。最初は苦手だったり、わからないことが多かったり、辞めたくなる場面が次々と現れる。その状態だと続かないので『自分が好きなこと』とセットにして、習慣化するんです。

例えば僕はジムやランニングを習慣にしているのですが、最初はめっちゃ辛くて。でもサウナが好きなので、サウナと併設しているジムに行けば楽しくなります。それを繰り返すと、徐々にサウナがなくてもジムだけで楽しくなってくるんですよね。そうやって自分の脳を上手く騙し続ける回路をつくることで、継続できるんです」

短期集中型で知見を深め、インプットとアウトプットを繰り返しながら、経験を重ねてきた小林さん。学びと仕事を分けて考えるのではなく、仕事の中での学びや、日々の中での学びを大切にしています。最後にデザイナーの成長に大切なことについてこう語りました。

小林「正解がない世界の中で、勉強だけをしていると飽きが出てくると思うんですよ。僕自身コツコツ勉強できるタイプではないと自覚していて、やりたいことは仕事として取ってきてしまうのがいいかなと思っています。その中でどうクオリティ高く仕事ができるか考えたり、誰かにダメ出しをもらったりする中で学ぶ。新しい何かを自分のものにしていくためにはその繰り返しが鍵だと思いますし、より早く成長するために重要なことだと考えています」

[写真]今井駿介 [文]佐藤由佳