事業目線が、自分だけではたどり着けない高みへと導いてくれる

今の時代に求められるのは、事業目線のデザイナー。CDO原田佳樹が考えるキャリア観

学生時代、プログラミングの面白さに惹かれ、Webの世界でキャリアを積む決断をした原田佳樹さん。Web制作会社でのインターンや、学生ながら事業立ち上げなどを経験した後、現在は株式会社TRIVE GROUPのCDOとして、制作からマネジメントまで幅広く携わっています。若手デザイナーのキャリア観を、原田さんに伺いました。

公開日:2019/11/03最終更新日:2019/11/06

原田佳樹
1992年、千葉県生まれ。中央大学卒。株式会社TRIVE GROUP CDO。大学時代にweb制作会社でデザイナー兼エンジニアとして1年半ほど修行したのち、創業デザイナーとしてペット領域事業で学生起業。大学卒業のタイミングで、 (TRIVE GROUP傘下の) 株式会社キネカに創業メンバーとしてJoin。現在は9人のデザインユニットを率いるCDOを務める。デザインと事業、デザインと経営について考えることが好き。代表著書「ゼロから始めるデザインシステム 」、note「フォント選びに迷ったら見返したい、おすすめ定番フォント31選まとめ (欧文編)」。

1.僕にとって、プログラミングは魔法のようだった

大学2年生の頃から、デザイナーになるべく制作会社でのインターンを始めた原田さん。クリエイティブの仕事に対する関心が強かったのかと思いきや、当時在籍していた学部は、総合政策学部。

専攻の学問の傍らで、気の赴くまま、興味関心のあることすべてに取り組む学生でした。授業、サークルなどの学内の活動はもちろん、学外で活動することも。そのうちのひとつが、Web制作講座の受講でした。

原田 「当時、アフィリエイトやネットビジネスなどにチャレンジしていて、Webを活用することが楽しいと感じていたんです。振り返ってみれば、小さな頃から、前略プロフィールやブログが好きで。みんながテンプレートを使う中、僕は必死にカラーコードを覚えて、日々カスタマイズして作り込んでいました。そんなときに、たまたまWebサービスの制作講座を見つけたので、受講してみることにしたんです」

講座で習ったのは、掲示板サービスをゼロから立ち上げること。プログラミング、Webデザインなどを一通り学ぶなかで、その魅力にのめり込んでいたのです。

原田 「コードを打ち込むと、Web上で思い通りにものが動いたり、表示される。まるで魔法だなと思うと同時に、もっと知りたいと強く思ったんですね。そうして、社員がふたりだけの、小さな制作会社でインターンを始めました」

知人から紹介された株式会社spreadiの門を叩いた原田さん。当時、spreadiではインターンとしての入社前に、専用の講座を受講する決まりでした。半年間で30万円と、学生にとっては決して安くない価格の受講費を支払い、覚悟を決めてWebの世界へと飛び込みます。

原田 「spreadiは、インターン生にもクライアントワークをゼロから任せるんです。そのための素地を身に付けるため、課題をこなしながら、実力を底上げするためのプログラムが用意されていて。初期は15人ほどいた学生が半年後には2人しか残っていないほどの厳しさでしたが、もう後には引けないと思い食らいつきました」

2.制作力、UI/UX視点、コミュニケーション力。ひとつずつ拾い集める時期を超えて

spreadiでは、1年半ほどインターンとしてクライアントワークを経験。Web制作なら一通りできるといえるレベルまで技術を積み上げていきました。デザイン、開発、ディレクションまで、幅広く関わった経験は今にも活きています。

原田 「1年半の中で携わったサイト制作は、6案件ほど。ひとりでWebサイトを立ち上げられるようになった経験や、スケジュール管理などの基本的な能力をしっかりと学びきれたのは良い経験でした」

その後は、Goodpatchでのインターン、Life is tech!でのメンター(講師)などを経験。spreadi在籍時と同様、置かれた環境でのゴールや目的を常に考え続けることで、各体験をより濃いものにできるようにと原田さんは常に考えていました。

原田 「Goodpatchのインターンではプロダクトの設計方法を、Life is tech!では子どもたちにプログラミングを教える講師としてコミュニケーション能力を。その他にも、学生団体を立ち上げて、旗を立てることを学びましたし、後輩のマネジメントに苦労する経験もできました。興味があるならすぐに取り組み、その環境下で学び取れることをすべて吸収してやろうと考え続けていました」

その後、原田さんにとっての大きなターニングポイントが訪れます。それが、ペットのトリミングを出張で行うサービス「trimy」の事業立ち上げです。

原田 「大学の講義で、起業アイデアのピッチを行うものがあったんです。そのときに、商学部の学生のひとりが提案したのがtrimyの事業でした。講義には、フィードバックするためにOBが来校していたのですが、その事業内容に興味を持ち『投資するからやってみたらどう?』という話になりました。その中で、プロダクト開発を一緒にやらないかと声をかけられたんです。僕としても、これまでの経験を活かせるチャンスだと思い、快諾しました」

trimyは、事業企画2名・エンジニア2名・デザイナーとして原田さんの、計5名で開発をスタート。世の中にインパクトを残せるかもしれない期待感と、スタートアップならではのスピード感が新鮮で、開発にのめりこんでいました。

原田 「メンバー全員でシェアハウスに住んでいたので、寝ても冷めても事業のことばかり考えていました。ただ、事業が思うように成長曲線を描けなかったことや、キーパーソンの離脱などもあり、1年半後には解散する決断をしました。trimyの開発に携わったことで、プロダクトへの愛情と、事業成長とを切り離して考えることの重要性を強く実感しましたね」

3.新卒フリーランス……と思いきや、CDOに

trimyの開発に夢中になるうちに、大学を卒業した原田さん。開発チームは解散したものの、原田さん自身は、次のキャリアに頭を抱えていました。

原田 「学生時代のインターンとtrimyの立ち上げの経験から、デザイナーとしての実力には相当自信がありました。ただ、稼ぐ方法がない。とりあえずフリーランスで受託制作の仕事を請けながら食いつなごうと思っていたところ、出会ったのがTRIVE GROUP代表の籔本でした」

籔本さんは、24歳のときに立ち上げた婚活支援事業を25歳の若さでミクシィへと売却、その後、イベント・カフェ事業の代表などを務めた経験を持つ起業家です。大学時代の経験から「いずれ起業してみたい」と感じていた原田さんにとって、籔本さんとの出会いは、次へ大きくつながる一歩となります。

原田 「最初は、業務委託として軽く手伝うって話だけだったんです。週に3日くらいオフィスに顔を出して、他の日は別の仕事をしていました。ただ、手伝い初はじめて2週間くらいで、ここで学びたいと感じるようになりました。というのも、当時の僕はデザイナーとしての自信はすごくあったつもりでした。にもかかわらず、朝礼時や就業時に、自分の知らない用語だったり、考え方だったりが飛び交う。天狗になっていた自分に気づき、『まだまだだ……』と強く感じたんです」

当時、キネカ(TRIVE GROUP傘下の一社)はエンタメ版Uber「pato」のリリースを終えたばかりのタイミング。にも関わらず爆速で成長する姿に、原田さんは衝撃を受けました。

原田 「これまでもいくつかの事業を見てきましたが、こんなにポテンシャルのある事業はないと思ったんです。加えて、当時のpatoはデザイン面でより良くなるポテンシャルを秘めていた。僕がジョインすることで、よりプロダクトを成長させられる。そう思い、業務委託契約から、フルコミットで参画させてもらいました」

てはじめにpatoのリニューアルを推進することとなります。原田さんは、このプロセスを通し、デザインへの投資を怠らないこと、ユーザーファーストなものづくりの大切さを学びます。

原田 「もともと、patoはリニューアル前から成長率の高いプロダクトでした。ところが、リニューアルを経て、その角度はさらに上昇。その理由は、必要なリニューアル部を見極めた上でデザインに投資し、ユーザーの意見を取り入れながらリニューアルを行なったからだと考えています。

デザイナーとして、CDOとして、僕自身はどのようにpatoをリニューアルするべきかと少し悩んだんです。フルリニューアルといっても、ビジュアル面のみなのか、機能面も含めてなのか。そして、何を、どのように変更するのかと」

原田さんの意見は「機能面もビジュアル面も、時間をかけて考え抜く」というものでした。ところが、社内では、さまざまな意見が飛び交います。原田さんと同様の意見を持つメンバーもいれば、必要最低限にとどめるべきと考えるメンバーもいました。その中で、同社でCTOを務める竹口さんのフィードバックが非常に有用だったと当時を振り返ります。

原田 「竹口は前職のDeNA時代にSHOWROOMをはじめいくつもの新規事業立ち上げに携わってきました。その経験から事業を早く回す重要性を常に語っていました。『デザインにこだわるのは重要だが、こだわりすぎてこのフェーズでリニューアルに時間をかけるのは得策ではない。今やるべきことをしっかり見据え、ユーザーに価値を届ける部分を優先して磨き上げるべき』。それが彼らの意見でした。

実際、その言葉を信じてリニューアルしてみたら、プロダクトの成長率は一気に跳ね上がりました。CDOとして、まだまだ考えきれていないことがあることに対しての反省と共に、視座を一段上げるために必要な良い経験だったなと感じています」
 

4.アウトプットドリブンでのインプットが成長の鍵へ

実制作のみを担当するデザイナーから、経営者目線でデザインを捉えるCDOへ。キャリアを着実に積み上げてきた原田さんは、キャリアの変化と合わせて仕事の喜びややりがいも変化しています。

原田 「昔は、自分が作ったものが世に出ることが嬉しかったんです。でも今は、自分が考えていることに共感してもらって、一緒に制作できる仲間を集めることが楽しい。自分や事業の想いに共感してもらい、プロダクトを通して、ユーザーに届ける幸せの総量を増やすことに対して、喜びを感じるようになっています」

現在、原田さんは、リソースの半分をマネジメント、もう半分を実制作と分担しています。デザイナーとしてのキャリアアップにも手を抜くわけにはいかない、と学んだことをnoteでアウトプットする日々。本を読む、作例を数多く見るなどのインプットではなく、あえてアウトプットするのは、原田さんなりの流儀があるからです。

原田 「アウトプットドリブンでのインプットを心がけています。そのほうが、インプットの質が高まるからです。たとえば、先日は世の中のフォントをリサーチし、定番フォントをまとめて1本の記事を書きました

CDOの仕事には、単なるUIやビジュアルのデザインだけでなくロゴやコンセプトの立案なども含まれます。僕がこれまで学んできたWebデザインの知識だけでは、足りない部分も多い。そのひとつが、タイポグラフィーでした。それなら、タイポグラフィーの基本要素のひとつであるフォントについて学び、アウトプットまででしようと考えたんです」

自分ではわかったつもりになっていることでも、アウトプットしてみると、不明瞭だったり理解度の浅い知識に気づきます。つまり、誰かに届けると考えることで、より思考を深掘りできるのです。

こうした、思考の深堀りを重視するのは、学びの観点だけでなく、デザイナーとしてのスタンスにも大きく影響しています。原田さんは、ただデザイン力が高くセンスが良いだけに留まらない、事業目線を持てるデザイナーこそがこれからの時代には求められると考えているのです。

原田 「デザイナーとして働き始めると、初期は、自分の成長ばかりに目がいきます。〇〇ができるようになりたいとか、〇〇の案件を担当したいとか。でも、自分自身の成長だけを考えると、その成長度合いには限界があります。スキルこそ身につけられてもそれが実践で役立つかはわかりません。

一方、事業目線を持つと視座が上がり、組織での勝ち方で考え、自分が特化すべき部分や強みや自身の価値も明確にできる。すると、自分だけではたどり着けない、高いレベルまで到達できるのかなと思うんです。これからのデザイナーには、そういった事業視点で、デザインと向き合うことが求められると思いますね」
 

[取材・文]鈴木しの [写真]吉竹遼 
 

5.原田さんも登壇の勉強会を11/14に開催します!

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